昭和の劇映画脚本家笠原和夫
昭和の劇映画脚本家笠原和夫 / 感想・レビュー
さらば火野正平・寺
600ページ超の大著だったので、読メそっちのけで読んでいた。有名な『仁義なき戦い』等の脚本家・笠原和夫に全作品(未公開作含む)ひとつひとつの事を尋ねる1冊だが、1本の映画を作る為に膨大な取材と勉強をしっかりとしていた笠原和夫の話は本当に面白い。この1冊で映画界や芸能界の裏話から監督批評、そして幕末から昭和にかけての近代史、裏社会やアウトローの世界が満ちている素晴らしい本である。分厚く重い本だが、全く苦にならなかった。面白いのに文庫になっていない本はまだまだあるが、これはその随一だろう。お薦めいたします。
2019/03/29
K
ああ、すごかった。226事件の背景や歴史的文脈での解釈も目から鱗だが、何よりも、日本軍は昭和天皇の私兵、原爆や空襲、特攻であれだけ多くの国民が犬死したのも全ては国体護持のため、という真っ向からの批判…それだけの覚悟があって書いていらしたんだなと思わされる。そのテーマを物語や登場人物に託す筆力もすごい。私自身の昭和の知識が浅く少ないせいでちゃんと理解しきれない部分も多かった。受験では日本史選択でありながら、どうせ試験に出ないからと戦前史をちゃんと勉強してないことが悔やまれるので、少し勉強して再挑戦したい本。
2017/10/26
d3
昭和の物語を紡ぎ出すためには、戦後から現代へつながる日本人のあり方を描く必要がある。 令和に生きる我々は戦争を遠い過去だと考えてしまいがちだが、人間としての気質がわずか数十年で変わるわけはない。昭和を観察し、現代を俯瞰することで、いまの社会が脆弱なバランスの上に成り立っていることが伺い知れるだろう。 笠原和夫の作品群は、単純に娯楽性を追い求めるだけでなく、人々の苦悩を鮮やかに提示し、混沌の時代での日本人の行動パターンを明らかにしてくれる。本書はそれらの脚本制作過程を詳らかに開示した貴重な証言集である。
2021/07/15
てまり
脚本作法そのものが時代の激動と強く結びついている。つまり歴史語り部分がおもしろい。しかし映画はたくさんの人の協力が必要なためか、なかなか納得のいく作品がないんだなあというのが印象的だった。背表紙が浅沼稲次郎暗殺なのは謎。本の中でそこは重点置かれてないんだけど。
2023/11/29
桑畑みの吉
日本映画ベスト1に『仁義なき戦い』シリーズを挙げる人も多い。シリーズ4作品の脚本家である笠原氏にインタビューをした本書は2002年11月出版、定価4,286円で600ページを超えて重量も内容もズッシリと重い。奇しくも出版1か月後に氏は病気で亡くなっている。そんな笠原氏の代表作を年代順に振り返るだけでなく、作品で描かれた軍人、テロ、天皇、ヤクザ等についての事実を語る裏近代史書的な側面もある。事件や人物の詳細な注釈も記載されている。本書を読んだ後で氏が脚本を書いた映画を見直せば新たな発見があるだろう。
2020/08/24
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