映画の中にある如く
映画の中にある如く / 感想・レビュー
踊る猫
淡白というか淡彩な文章を書く人だと思う。こちらの心に後々まで傷をつけるような文章ではない。下劣な、あるいは強烈な表現を「狙って」書く書き手ではない。だがその声は芯がありよく通る。ゆえに読み終えたら後に残るのは清々しさだ。この著者は本当にいろんな映画を観ている。クラシックから現在に息づく映画まで。女性に対して点がやや甘くなっているのはご愛嬌というやつだけれど、それでも見巧者としてのセンスや着眼は十二分に発揮されておりナメてかかることはできない。この著者を見習い、自分も日々アンテナを高く掲げて映画を鑑賞したい
2022/04/12
もりくに
川本三郎さんは、最も信頼している映画評論家です。でも、彼の文章は、とても注意深く読む必要があります。なぜなら、彼は基本的に「悪口」を書かないので、褒め具合で作品の評価の判断を、しなければならないから。ただ、彼の褒め方は昨今の映画会社のお先棒の「映画ライター」の「よいしょ」とは、似て非なるものです。彼の書き方は、「レファランス(参照)」という方法だそうで、新しい映画を観た時、同じ手法の映画を思い出すということで、次々に映画のタイトルが出てきて、その作品世界、俳優のことが語られ、とても楽しい気分になります。
2018/07/12
踊る猫
泣く子も黙る川本三郎氏のエッセイを纏まった読むのは実はこれが初めて。静かなる怒りが伝わって来る……と言えば言い過ぎだろうか。古い映画を愛する一方で『もらとりあむタマ子』や『ハッピーアワー』のような新作をいち早くチェックし、なるほど直接的に政治状況にコメントすることはしないものの鋭敏に映画から時代を読み取ろうと腐心していることが伺える。その姿勢には唸るしかない。新しい映画を観て感覚を磨き続けていた淀川長治と同じスピリットを持つ批評家の一冊だな、と思わされた。是非とも『舟を編む』『きみはいい子』を観てみたい!
2018/06/14
koji
「キネマ旬報」連載コラムを纏めたもの。著名なコラム乍ら初読でしたが、すっかり填まりました。著者の映画評論スタイルは、一つは「細部から映画のなかに入り込む」。鉄道、音楽、猫等々。もう一つが「新しい映画を見た時、同じ手法の映画を思い出す」。石井裕也「舟を編む」から辞書作りの学者ゲイリー・クーパー演じる「教授と美女」を思い出すこと等々。細部への拘りと連想の面白さは、「ぼくの採点表」のレビューでも引用させて貰いました。唯本書の凄みはその奥にある「現代の深層で蠢く不気味さへの静かな抵抗」。川本さんは厳しい人なのです
2021/06/12
更夜
『キネマ旬報』の人気連載。映画をキャストやストーリーだけでなく、大好きな鉄道に想いを馳せ、クラッシック音楽が映画の中に流れるとすぐさま反応する。そしてすべてを愛おしむように語ります。ただ優しいだけではこんな本は書けません。その芯にある映画を尊敬する気持、言葉を大事にする気持、知識経験が豊富でも映画を観て「粛然とする」という表現をされていますが、謙虚ながらも気骨ある凜とした姿勢はいつも見習いたいと思っています。言葉の使い方選び方もすばらしく上品。良い映画にはいつも「遠くを見るシーン」があるというのは納得。
2021/04/28
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