丹生都比売
丹生都比売 / 感想・レビュー
ヴェネツィア
梨木香穂は、その作品ごとに文体が違っているのだが、読後はいつも、この文体こそがこの作品にはふさわしかったのだと思わせる。本篇は、日本の古代の政治的転換期を、草壁皇子を軸に描いていくのだが、冒頭に『日本書紀』斉明記の朝倉山から鬼が大葬を見ているシーンを置くなど、随所に上代の持つ特有の感覚が物語を支え、それがまた物語を形成してゆくのである。
2012/03/18
seri
冷たく澄んだ古代の秋の風が頬を撫でていくのを感じる。煌めく水の流れ、儚く燃える星々の銀。中盤からのきらめく言葉の奔流に、為す術もなく流されてしまう。大地を焦がすように照りつける人の欲も、いつかは哀しみの朝露と変わるもの。大輪の花だけが花じゃない、太陽の光だけが光じゃない。これはひっそり佇む堅香子の花、冷たく静かに輝く銀星の話。激しい世の中に見えぬこと、語られぬことは多いけれど、強過ぎる光だって、儚い光を慈しむもの。泣きたくなるくらい美しくて、どこか切ない水のように流れる日本語を堪能しました。何故、絶版。
2014/03/24
榊原 香織
草壁皇子の話。 壬申の乱直前、両親と吉野に隠れ住んでいた当時。 梨木版”死者の書”かな。 丹生都比売の神社行ったことあります。 姫神らしく瀟洒で神秘的な。 高野山の若いお坊さん達が詣でていて、リーダー格の人が石碑の梵語を後輩に読んでた。 その後、高野山紹介番組でその人が出てたので、出世頭かしらん
2021/09/07
星落秋風五丈原
誰よりも彼自身が、親達と決定的に違う事に気づいている。燕の宮殿で親に見捨てられる雛が誰であるかということも。草壁は周りが見ていない事に気づく少年。 自分に神が降りてこない父の焦り、権勢を得るための母の過去の行為。弱みがないように見える彼等のウィークポイントは、彼等もやっぱり普通の人間だった証拠。最も強い人の弱みを、最も弱い立場にある人が知ることになるという皮肉。これが後半の草壁の運命への伏線。なぜ彼は従容と自分の運命を受け入れられたのだろう。汚れたこの世に、彼の居場所はなかったのかもしれません。
2003/07/30
Gotoran
「西の魔女が死んだ」、「死者の書」(大津皇子がモチーフ)繋がりで本書に至る、不思議な巡り合せ。読後感が心地よく、余韻が消えない、思いやりのある優しい文章描写に心の温もりを感じつつ。飛鳥(皇位継承)時代に、目立たずひっそりと眠る草壁皇子に焦点を当て、母(鸕野讃良皇女、後の持統天皇)、父(大海人皇子、後の天武天皇)、異母弟(忍壁皇子)との関りと、謎の女性(キサ、もしか丹生都比売か?)との心の触合いが、儚くも美しく幻想的に綴られる。子が親を想う気持ち、親が子を想う気持ちが伝わり、心の琴線に響いてくる。以下コメへ
2012/04/17
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