富永仲基異聞: 消えた版木
富永仲基異聞: 消えた版木 / 感想・レビュー
松本直哉
儒教・仏教・神道のすべてを相対化する富永の過激な思想は江戸幕府には不都合なもので、とりわけ儒学批判の『説蔽』の版木が失われた事件は当局による焚書の可能性が高く、わずか30歳での死も謎めいている。切支丹へのあからさまな弾圧とは対照的な隠微な、証拠を示すことさえ困難な思想統制を、著者は想像力で補いながら戯曲の形で虚実織り交ぜながら描写する。大坂の町はこのような自由思想家を生むだけの度量があったが江戸には生まれ得なかっただろう。富永にあと数十年命が与えられていたら日本の思想史は大きく変わっていたに違いない。
2016/02/14
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