遠ざかる家 (イタリア叢書 3)
遠ざかる家 (イタリア叢書 3) / 感想・レビュー
mim42
難しい小説だった。文章が読みづらいというわけではなく、第二次世界大戦後のイタリアの状況のような背景知識がないと、読んでいても「ふーん…で?」となりそう、という意味で。なりそうというかまあ実際私がそんな感じなのだが…少なくとも後の「冬の夜…」などのようなメタ小説的な要素は無いストレートな小説だった。考えようによっては、階級だ家族だ時代だ何だ語ることは出来よう。個人的には、カイゾッティ=サトペン=浜村龍造、と重ねてしまう。良い感じの胡散臭さと強さタフさ脆さ。
2024/02/13
roughfractus02
原題La Speculazione Edilizia(建築投機)は、しっかり見ることと組み立てることという思索的意味を含むかに思える。一方物語では、第二次大戦後の急速な宅地開発の進むイタリアの町で戦争を忘れたようにお金に追従する人々と、かつてのレジスタンス運動やマルクス主義運動の素早い「転向」があり、それに困惑する主人公も家を建築中である。が、人々が足早に未来を目指す中、主人公の時間は遅延する。完成に程遠い彼の家は、しっかり見て組み立てよと言いたげだ(伏字や変数混じりの本文も、しっかり読めと言いたげだ)。
2019/03/05
8123
『木のぼり男爵』と同時期に書かれたらしい。逃避か?積極介入か?の2択を示した対照的な2作だと言える。主人公が序盤うさんくさい悪徳土建屋カイゾッティを擁護しているのは、浮世離れしたインテリ層への見下しの表れであり、世慣れた実務家であるという自負を持って上流階級を蔑むふるまいであるとはっきり書かれている。当然そのような企みは、現実からのしっぺがえしをうける。だいたい建築投機なんか「縛られるのが怖くて早くケリがつけられるよう好みじゃない女ばかりを追いかけ」るような人間には到底無理な所業だろうがよ。
2021/04/09
Pezo
投機のことしか頭にない経済人に憧れる文化人崩れの悲哀とか、50年代イタリアの経済成長とか、パルチザンと共産党を通り過ぎてきたカルヴィーノがそれらをどう描いているかという、どっちかというと即物的で俗っぽい部分が面白かった。
2018/09/07
崎本 智(6)
原題をそのまま直訳すれば「建築投機」らしいが訳者が「遠ざかる家」として発表らしい。しかしその選択はまちがっていなかったと思う。いつまでたっても建てられない家をめぐっての人間関係のトラブルはユーモアにあふれていて何かを風刺しているようでもあるし、もしかして神話や民話などとも通じ合っているのではないだろうかというような匂いまでしてくる。まどろっこしい展開はまさに小説だけに可能だったものかもしれない、その意味でまたカルヴィーノに舌をまいた!
2013/08/18
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