このあたりの人たち (Switch library)
このあたりの人たち (Switch library) / 感想・レビュー
ヴェネツィア
いつもながらの飄々としたタッチ。なんだか懐かしいような街並みでもある。川上ワールドに帰ってきたのだ。26からなる連作掌編で紡ぎだされる世界。ファンタジーなのだが、その質はといえば、限りなくフォークロアに近いようなそれである。そう、例えば民話の「鶯の里」みたいな。文体表現も、いつもの川上調。「人形ののうみそは、まっしろではなくて、隅のほうがくろずんでなんだか汚かった」―こんな風なのだが、意味の混乱がない限りは漢字や漢語を使わずに、「かな」と和語でどこまでも柔らかに語ってゆくのである。
2020/09/13
風眠
このシュールさ、このばかばしさ、そっけない文体なのに思わず笑ってしまう。すべてににおいて最高です!私の大好きなやつです!冷めてるのかと思えば暑苦しかったり、意地悪かと思えば可愛げがあったり、意味深なのかと思えば実はそうでもなかったり。身近に関わったら絶対に面倒くさいけど、少し離れたところから見てたら面白い人しか出てこない。独特に個性的な人々が住む架空の町、繰り広げられるあれこれ。ちょっとダサい感じがするのも、いい。ひとつひとつが独立した掌編だけれど、通して読むと繋がっている。めくるめく不条理ギャグの世界。
2018/04/28
新地学@児童書病発動中
現実の世界の隣にある不思議な世界を、淡々と描いていく連作集。非常に面白くて、私の好みに合っていた。例えば、「埋め部」という掌編がある。あらゆる物を埋めてくれる小学校のクラブ活動で、ミイラを校庭に埋めたりする。外交官らしき人物が来て、町の人たちが地下のシェルターで暮らし、20年の時間があっという間に過ぎることもある。この不思議な世界は現実の世界を侵食するわけではない。現実の世界にぴったりと重なっている感じだ。この絶妙な距離感にワクワクしながら、読み続けた。
2016/08/19
抹茶モナカ
マルケスのマコンド村みたいな街。お伽噺のような掌編が積み重なり、このあたりの人たちのいる不思議な街を描き出している本。さらりと読みやすく、するする小説世界に入り込める。大人のための昔ばなしのような味わい。川上弘美さんらしさも出ていて良い。この先も書き継いで欲しいです。
2016/07/31
かりさ
これぞ川上弘美さんの真骨頂。どこか不思議で現実と幻想のあわいにあって、少し歪んだ世界を綴る連作掌編集。この小さな町に住む人々のなんら変わりのない普通の暮らしが、読み手にはとてつもなく奇妙で、でもいつの間にか同調している感覚。くるんと世界が回りどこか捻れた空間なのに何故か懐かしく愛おしい感覚。最初の話「ひみつ」から惹き込まれ、白昼夢の中をたゆたうように道すすみ、ラスト「白い鳩」へと誘われます。現実に戻ってこられるかここに留まるのか…このあたりの人々の世界に惹き込まれて何度も戻ってしまいそう。装丁も素敵。
2016/09/09
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