夜の語り部
夜の語り部 / 感想・レビュー
新地学@児童書病発動中
ダマスカスを舞台にした幻想的な長編小説。口のきけなくなったサリムが主人公で、さまざまな物語が小説の中で語られていく。この物語の中の物語という設定が素晴らしい。一つ一つの物語が共鳴し合って、語りの豊かさの世界の中に読み手を連れて行く。ダマスカスのような古い都には様々な物語が蓄積されているのだろう。その歴史の堆積を掬い上げて、物語に仕立て上げるシュミの手品師のような手際に魅せられた。面白い物語を聞くと、どんな人でもわくわくする。物語を語ることと、それに耳を傾けることは、人の天性だと改めて思わせてくれる傑作。
2018/03/04
nobi
古都ダマスカスの語り部達の物語を章毎に変わるアラベスクな文様が縁取る。中東の1960年前後のきな臭く貧しい暮らしの中に物語を紡ぐアラビアの伝統が息づいていて、相容れなく見える両者が隣り合って自然。発端はある夜御者サリムのもとに訪れる妖精。その妖精の王様の七と三とその積二十一に絡む条件、なんて嬉しくなってくる。茶々入り過ぎの処もありつつ、千夜一夜風物語の間に困ったアメリカ人観光客と出会った話等もあって、毎晩集う年老いた男達の表情が浮かんでくる。その中女の語り部登場!そう言えばシェヘラザードは女性なのだった。
2017/12/16
らぱん
稀代の語り部の失った声を取り戻すために、7人の仲間たちが物語を語ることによって彼を救わんとする物語。1959年のダマスカスが舞台でアラブ的マジックリアリズムを楽しめる愉快な話だが、物語とは何かを考える「物語についての物語」であることが面白い。当時のシリアには言論弾圧がありモノを語れぬ世の中になってしまっていることや、政府のプロバガンダは物語とは逆になる「真実としての嘘」を語っていることが、世間話として差し込まれている。物語の意味や役割をわかりやすく表して重要性を訴える。刺激的で示唆に富む面白い本だ。↓
2019/06/28
みねたか@
シリアの首都ダマスカス。テレビやラジオもなく物語が極上の娯楽だったころ。言葉をなくした語り部サリムの周囲に集う友人たちが語る7つの物語。「言葉は目に見えぬ宝石だが、それが分かるのは言葉を奪われたものだけ」というテーマのもと,物語の想像の翼は世界を縦横に駆け巡り,古都の8月の火の玉のような暑さ,曲がりくねった路地,車の轍や子供の引っ掻き傷だらけの歴史のある古い土色の顔をした通りに読者を誘い,その匂いや熱気,喧噪を感じさせる。装丁とページデザインの妙も相まって,アラブの物語世界を堪能した。
2019/12/24
コジ
★★★☆☆ 1950年代のシリアはダマスカスを舞台にした大人の為の寓話。主人公の物語の名手にして御者のサリム。物語の妖精がその身を離れ、声を失ったサリムに告げられたは、妖精はサリムから離れる際、3カ月以内に七つの特別な贈り物を手に入れ、新たに訪れる妖精を満足させない限り、永遠に声を失ったままとなること告げた。そこでサリムの友人達はそれぞれの物語を語り、それを贈り物とするこにした。友人達の贈る物語は啓蒙的ではあるが、決して堅苦しくはなく、今ほど荒んではいないシリアの雰囲気を感じられる。
2020/03/02
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