耳飾り (コーネル・ウールリッチ傑作短篇集 5)
耳飾り (コーネル・ウールリッチ傑作短篇集 5) / 感想・レビュー
星落秋風五丈原
事態の悪化に伴い雲を抑えられなくなってゆくフランシス。 「いつもと同じ夜」と言いながら、月と星の状態を変えていく。この二つの文のリフレインにより、読む側に 「ああ、何かが変わっていく。何かが起こるんじゃ。」という不安感が高まってゆく。 サスペンスの糸がぷつっ、と音を立てて切れるのはいつか。 その時彼女の上に輝くのは一体何か。気持ちもページを繰る手も加速した後に訪れるのは何とも皮肉な幕切れ。最後も、月と星の文で切れ味鋭く締めている。ウールリッチ屈指の好中篇である本作他、本邦初訳2篇を含む全8篇を収録。
2003/08/08
藤月はな(灯れ松明の火)
表題作は不倫のツケを支払うことになってピンチになった妻にとって判明した真実が怖いです。生きているのも不思議なくらいの罪を重ねたがその殺人では無実である人を自分が死刑台に送り込んだ事実と自分の不実と考慮の至らなさが引き起こした殺人の真実を秘することが彼女の罰になったのかもしれません。過去の殺人を告白されたものの一緒になった妻がどこか導火線が短い夫の言動と殺人、そして大切なものを失ってしまった結末の話も遣る瀬無いです。最後の「パルプマガジン作家」はよくあることを滑稽と自虐を込めて描いているのが印象的でした。
2013/01/08
浅木原
解説が連城三紀彦ってだけで読んだんだけど、あらやだなにこれめっちゃ面白い。ミステリとして特別優れてるわけじゃないし、「復讐者」とかまるで意味がわからないんだけど、文章の波長が自分にジャストフィットでサスペンスに心地良く浸れる。「耳飾り」「妄執の影」「間奏曲」の暗さ、「射撃の名人」「パルプマガジン作家」の楽しさ、「選ばれた数字」「復讐者」の不条理、「女優の夫」の甘い感傷。全て俺のためにあるような読み心地の良さ。これはウールリッチの文体が元々そうなのか訳がいいのか……とりあえずこのシリーズ集めます。
2015/11/04
刻猫
文章の質感と技巧の調和。何事も初期の方が良いと言いがちな自分だけど、これは味わい深いと感じた。
2015/03/26
nightowl
解説でも書かれているように暗く、自伝から抜粋された文章がウールリッチらしさに溢れひどく悲しい。不安定な心情描写が冴えている。「パルプマガジン作家」が無ければ気持ちが落ち込んだままになってしまうところだった。
感想・レビューをもっと見る