平田オリザの仕事 1
平田オリザの仕事 1 / 感想・レビュー
ころこ
前半では、日本語をアクセントや語順を中心に分析し、それを再構成することでつくり上げた「現代口語演劇」の解題が平易に、率直に書かれています。心理や感情を役者が内面化した近代演劇では、役者の理解に留まるステレオタイプの行為と精神が表現されるに過ぎない。著者によると物や人間との関係、人間同士の関係によって生じた「もの」をめぐって観客と作り手の間に生まれる世界をみせるのが演劇だといいます。役者に感情を出させないことでかえって役者の変容を促す手法は、映画『ドライブ・マイ・カー』の劇中劇でも用いられていた方法でした。
2022/06/10
しゅん
文化提言やコミュニケーションに関する新書も十分刺激的だが、平田オリザといったらやはりこの一冊。語順操作で情報を伝えるという日本語の特色を利用する、俳優の心理ではなく運動によって心の核を表現するという手法は画期的かつ論理的だし、「無為を表現するために徹底した作為を繰り広げる」「イデオロギー伝達や社会的リアリズムの機能しない現代に芸術家にできることは作家が感じた世界そのものを描くことだけ」など芸術のコアを表した言葉も切れ味抜群。演劇論としてだけでなく、言語論や認識論としても面白く、その射程は驚くほど深い。
2017/06/06
orange21
作為から放たれた言葉や挙動はいともたやすく、そうでない言葉や挙動と乖離してしまう。演劇は具体と抽象で言えばその両方が鑑賞者の前にある。絵画はテーブルを描いたときそれはテーブルの抽象だが、演劇はテーブルを置けばそれはテーブルである、具体である。しかし「私は歯が痛い」(この文章自体がまず日常生活で発せられない「不可能な」セリフだと指摘している)と役者が発した時、実際に役者が歯に痛みを覚えているわけではないことは勿論、歯の痛みはそこになく、抽象である。かろうじて可能なセリフは「歯が痛そう」と言わせること。
2015/10/03
よしざき
「舞台で「何気ない日常」を表現するなどと人はいうが、そんなものは本当の生活の中にはありえない。あるのは、生と死と、そこに挟まれた烈しい時間だけだと思った」とても静かな彼の芝居だが、ふとした一言に誰かと誰かの「烈しい」出会いが顔を覗かせる
2014/10/29
ゲタ
平田オリザの本は新書で二冊読んだのだけれど、その二つより全然面白かった。まあ、それは単純にこの本が演劇論にスポットを当てた本だからなのだけれど。日本語の言語構造の分析は面白かったが、こういう演劇が生まれるのは構造主義が背景にあるんやろうなと思う。でも、すごく勉強になります。まぁ、今ではもう少し古いんですけどね。しかし、まだ超えられていないのも事実だけれど。
2015/12/09
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