ビロードのうさぎ
ビロードのうさぎ / 感想・レビュー
ヴェネツィア
これは酒井駒子さんの絵本を代表するものであるとともに、彼女の美質が最大限に発揮された1冊だろう。この人の絵は、けっして動きがないわけではないのだが、動きの中の一瞬を切り取った静止画に特質があるようだ。その意味でもビロードのうさぎは格好のものである。男の子の表現にしても躍動よりは内省に中心が置かれている。また、あくまでも柔らかな形状と印象派風の光とが絵本に横溢する。しかし、そうでありながらも、明るさよりは孤独や一抹の寂しさがそこにはある。それが酒井駒子絵本の深みか。
2022/11/09
馨
絵が可愛い。私も小さい頃に気に入って、大事にしていたぬいぐるみたちは、こんなふうにほんものになって幸せになってくれていれば良いのになと思います。
2018/04/15
やすらぎ
ねえ、ずっと離れないでいて。また木いちごの茂みで遊ぼうね。クリスマスの夜に出逢ったビロードでできた小さなうさぎは、ずっと一緒にいたいと願っている。暗闇の木箱に入れられてしまえば、みんなのことを忘れてしまいそうで恐かったし、明かりが見えればできるだけ近づいていたいと思っていた。ほんとうのものになれるって、どんなものになれるの。もし心と体が別々になったら何が起こるの。それがひとつになってしまったらもう戻れないっていうけれど、それは悲しいことなの。この落ちた涙の温もりをずっと大切に閉まっておくことはできないの。
2022/12/18
seacalf
もうとにかく絵の素晴らしさに心を奪われる。独特の吸引力があるのよね。あっという間にお話の世界に引き込まれる。いとけないうさぎのピュアで真っ直ぐな意地らしさが伝わるストーリーで、最後には目を潤ませる。クリスマスの時期にはこんな魔法を信じたくなるなあ。酒井駒子さんの作品にもっと触れてみたいから『森のノート』を読んでみたくなるし、このお話自体もキュートで好きなので、石井桃子版も読みたくなる。
2019/12/24
糸車
ぬいぐるみのうさぎが持ち主の男の子に愛されることによって「ほんもの」になるというお話。じんわり心にしみて泣けました。日本でも何種類か出版されている中で、訳者でもある酒井駒子さんの挿絵が印象的で上の娘に母の日のプレゼントとして買ってもらいました。実はリアン・バンクスのロマンス小説「二人の奇跡」でこの絵本を知りました。アルツハイマー病の治療薬を研究開発している主人公が人から愛され、自身も愛を知ることで悩み苦しみながら人として成長するお話がこの絵本にリンクしていて、より深く内容を掘り下げて読むことができました。
2016/04/29
感想・レビューをもっと見る