幻滅 ― メディア戦記 上 (バルザック「人間喜劇」セレクション <第4巻>)
幻滅 ― メディア戦記 上 (バルザック「人間喜劇」セレクション <第4巻>) / 感想・レビュー
ケイ
政治の腐敗を断じ平和のためにペンで闘う…ちゃんちゃらおかしい。ペンというナイフや銃で攻撃し、ジャーナリズムという盾で批判をかわし、本当に大切なことより読者の読むものを提供する。ジャーナリズムという肩書きを持つことを恥じよ。『Illusions perdues』というタイトルを持つこの作品には、バルザックが献げたユゴーへの敬意を感じる。並々ならぬ意気込みがある。俗と対極にある『セナークル』の人達。高潔であるには清貧であるしかないのだろうか。ブンヤになってしまったら終わりだとのメッセージが強い。下巻へ。
2018/03/10
NAO
田舎の天才詩人リシュアンはパリに出てみれば世間知らずでうぶな貧乏青二才でしかなく、出版関係者や社交界の面々は寄ってたかって彼を潰しにかかる。バルザックによって描かれたパリという大都会の裏側、内実は、生々しくおぞましいばかりだ。訳者によって「メディア戦記」という副題がつけられたように、バルザックはこのジャーナリストの世界をこそ描きたかったのだろう。純粋培養されて育った気位の高い田舎者がパリの街でしたたかに生きている海千山千に太刀打ちできるわけもないが、すっかり踊らされているリシュアンが哀れでならない。
2016/05/20
syota
「人間喜劇」の中核をなす作品の一つ。上巻は、才気があって美男子だが世間知らずで、周囲に流されやすい文学青年リュシアンが、パリに出てきて文芸担当の新聞記者として第一歩を踏み出すまで。ここまで読んだ限りでは、主役リュシアンの運命よりも、当時勃興しつつあったジャーナリズムのでたらめさ加減が強く印象に残っている。モラルも社会的使命もどこ吹く風、カネと私怨でいい加減な記事をでっち上げる百鬼夜行の世界は、呆れるばかりだ。19世紀フランス社会の内幕を生き生きと描き出す、社会派ドラマ。[G1000]
2016/04/26
みつ
本作の(作者によらない)副題は『メディア戦記』。冒頭で印刷所の息子ダヴィッドが登場し、印刷用紙の改良について述べる(p144〜)など、てっきり彼が重要な役割を果たすと思わせて、その後は彼の元学友として登場する美青年リュシアンが中心に。詩人としての成功を夢見る彼が人妻に恋する様が描かれるが、野心家というよりも、目の前の快楽のため友人や家族の援助を当てにして浪費を繰り返す、愛され坊ちゃん。パリでの幻滅、「セナークル」の芸術家との交友を経て、生き馬の目を抜くメディアの世界に身を投じることに。以下は下巻へ➡️
2022/03/05
H2A
パリと地方の出版、言論界、芸術家、貴族社会がこれでもかとばかりに精細に描かれる。パリにやってきたリュシアンは文学の夢も半ばに、ジャーナリズムの世界で持ち上げられ、世間に無知なゆえに一気に転落する。恋人が死んでも葬儀代さえ出せない。そんな彼が自暴自棄に笑いながら通俗的な小唄をつくって金を作る・・・。こんなに小説らしい小説が他にあるだろうか。
2009/10/22
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