マルセル・プルーストの誕生 〔新編プルースト論考〕
マルセル・プルーストの誕生 〔新編プルースト論考〕 / 感想・レビュー
夜間飛行
「自分とは何か」という問いを抱えて『失われた時』を読み始め、以来ほとんど一生をかけて研究してきた著者によるプルースト論の集大成である。第一論文でプルーストが語り手を通して名前のない「私」を提示し、その完成を読者に委ねたという結論に達する。これはプルーストの読者が作品中に自らを発見し創造に参加するという事と重なる。そして後年の論文で、悲劇の根源へ遡るかのようにプルースト父子をアブラハムとイサクに擬える。父の絶対支配下にあった母への愛と共犯関係…このような分析から、プルーストにおける罪の問題が論じられるのだ。
2016/07/18
i-miya
2013.06.02(読んだわけではありません、日経新聞読書欄から) (著者=鈴木道彦、1929生まれ、獨協大学名誉教授) (書評=野崎歓) (見出=作家の全体像を探る論考) 半世紀以上にわたる論考をまとめたもの。 専門研究でありながら、文学好きなら面白い。 ユダヤ人や同性愛。 「無名の一人称」と原稿段階にさかのぼっての創作プロセス跡付け。ナラトロジー(説話論)的読解と草稿研究。 研究者たちにとってのみ有意義であったことに異議をていする著者。 「広く一般の読者に向けて」。
2013/06/02
ラウリスタ~
50年以上にも渡って(時に中断しながらも)行われた鈴木氏のプルースト研究をまとめたもの。なので、かなり重複が多いのが欠点。作家の子孫に頼んで草稿を見せてもらったりした、戦後日本人留学生の草創期の活躍ぶり。同性愛、母へのエディプス・コンプレクス、ユダヤハーフとしての屈折した思い、などから作家の誕生を読み解こうとする(日本語だから遺族から文句言われんだろう)。過度に生身の人間としてMPと語り手の私を同一視しているのでは?とも思う(鹿島茂の留保はこれを意識か)。小説では存在しない「弟」へのコンプレックスは面白い
2020/06/06
壱萬参仟縁
プルースト自身が「読書の日々」と題されたラスキン論で、「真実を自分自身のうちに探し求めることに倦み疲れた精神」と、皮肉な口調で指摘している(邦訳1977年、27頁と483頁)。ラスキンの『胡麻と百合』には、プルースト自身の読書の回想とラスキンによる読書論への批判が記された(457頁)。
2014/02/03
OHNO Hiroshi
『失われた時を求めて』主人公の名前はマルセルではない。全ての恋愛の幕開け。「小さな狼さん」と呼ばれ。母と子の近親相姦、やがて同性愛。 冒頭の「就寝の悲劇」母のキスがないと眠れない。なんとかして来客を押し退けて母にキスしてもらいたい。 狷介(けんかい)な性格になるのか。 プルーストは言う。 「自分の本を読む読者は、実は読者自身を読んでいる」
2021/03/09
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