磯崎新+篠山紀信 建築行脚 (5) 中世の光と石 ル・トロネ修道院
磯崎新+篠山紀信 建築行脚 (5) 中世の光と石 ル・トロネ修道院 / 感想・レビュー
ヴェネツィア
「篠崎新+篠山紀信 建築行脚」シリーズの1冊(第5巻)。ル・トロネ修道院である。プロヴァンスの山中にあって、現在もなお人里離れた地に建っている。まさにひっそりと、といった風情だ。磯崎の論考も詳しく、単に建築を語るのではなく、その精神的支柱となったシトー修道会についても述べられている。しかも、装飾を排するといった精神はこの修道院の建物や室内にも十全に発揮されている。外観もそうだが、とりわけその内部空間の造型においてそれが顕著である。そして、篠山の写真は見事にこれを伝えている。わずかな装飾が⇒
2021/05/17
夜間飛行
ル・トロネ修道院が属するシトー会では、あらゆる快楽が否定されたらしい。《荒い石の架構とその空間を埋める光と音だけ》から成る建築を痛みという論理が貫いている。痛みだけが欲望を打ち消せるからだ。修道士の平均寿命は28才という短さだった。一切の図像を消された空間で、日々営まれる神への無限の歩みを思うと気が遠くなる。だが、この《排除の手法》は近代の実用主義にも通じるのだ。ル・コルビュジエは何度もここを訪れ実測したという。そこには単なる形態の類似を超えて、人の生として写し取られていく建築の実相があるように思われた。
2019/06/16
白玉あずき
豪華、篠山紀信氏の写真。シトー会の中でもとりわけ厳格な教義に則って建築されたル・トロネ修道院。神への祈りの邪魔になるとしてあらゆる装飾をはぎ取った石と光のみの空間が、当時の修道士たちの厳しい生活を彷彿とさせる。肉体的なすべての快楽を否定する教義の厳しさ、天上の光のみが温かく美しい。たぶん食事もかろうじて(肉体が)死なない程度の低栄養だったのだろう。修道士の平均寿命28歳・・・その魂と肉体を画然と分ける二元論と肉体蔑視はとても自分には受け入れがたい。
2019/07/26
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