ポール・ヴァーゼンの植物標本
ポール・ヴァーゼンの植物標本 / 感想・レビュー
アキ
南フランスの蚤の市でアトラスの古道具屋がふと目にした紙箱の中には、Melle Paul Vaesenという可憐な飾り文字と100枚ほどの美しい押し花の標本が収められていた。無名の恐らく個人的なスイスなどで収集された植物の標本は、左下に採取地名、右下に学名が記されていた。堀江敏幸の「記憶の葉緑素」というエッセイを読むと、この標本を丁寧に作成したおよそ100年程前の彼女の姿が目に浮かんでくるように思える。3次元の植物を2次元に閉じ偶然日本に連れて来られた標本も長い旅の途中にふと立ち寄っただけなのかもしれない。
2023/01/09
buchipanda3
装幀に心くすぐられる。昔の専門書を想起させる半透明なパラフィン紙のようなカバー。それを通して見える表紙の植物標本(押し花)の美しさが、その先に出会うものへの期待を高めてくれた。ページを捲ると百年を隔てた欧州高地の植物たちの標本写真が落ち着いた表情で迎える。二次元となった花々は淡く色を残し、多様な形状の葉とすらりと伸びた茎は洗練された装飾デザインを見ている気分に。一つ一つ表情の違いを見つけながら愉しさが湧き上がった。加えて堀江敏幸氏の掌編で採取と蒐集の心が広がる。楽しみとしての芸術という言葉に頷いた。
2022/09/28
帽子を編みます
美しく愛らしい小振りな本。読友さん御推薦、図書館の棚になぜか横に入れられていました。きっと特別な本なのでしょう。押し花の手法で作られた植物標本の写真が96葉(表紙含む)、退色し霞むような中に残る色に思いが動きます。厚みのある実、葉のザラザラした質感、身近にあるあの花、踏むとじわっと香る草、じっくり眺めたくなる植物たち。中に異国での骨董商での思い出を描いた堀江敏幸の短編。時間を切り取ったかのような思い、かつて作った押し花、誰かに貰った押し花の栞、かすかに香る草の香り。本を閉じると時間が動き出すのを感じます。
2022/11/07
チャーリブ
湯島の古道具屋の店主が南フランスの蚤の市で見つけた紙箱。"Melle Paule Vaesen"という飾り文字があり、100枚ほどの美しい植物標本が収められていました。ポール・ヴァーゼンという女性が100年ほど前にフランスやスイスで採取した植物の標本。縁あって店主がそれを日本に持ち帰ります。その標本画集とフランス文学者の堀江敏幸氏の「記憶の葉緑素」という書き下ろしエッセイのコラボ作品が本書です。巻末に植物名(和名)が記載されていますが、たとえばヒナギクの花に残るほのかな紅色など慕わしい。○
2022/10/26
ルカ
約100年前の植物標本。花や葉のレイアウトの美しさに目を奪われる。そして堀江氏の文章に導かれ、植物採集の奥深い楽しみを知る。野に立つポール・ヴァーゼンと共に、ページを捲った。密やかな光を放つ本であった。
2022/10/08
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