9990個のチーズ
9990個のチーズ / 感想・レビュー
ヴェネツィア
著者のヴィレム・エルスホットは20世紀ベルギーの作家。本書は英語版からの重訳。原語はフラマン語かと思われる。イギリスでも評価は高いらしく(ガーディアンの必読1000冊にも選ばれている)帯には柴田元幸氏の推薦文も。内容的には、何の衒いもないリアリズム文学。そして、今時珍しいくらいに平易である。ふとフローベールを思わせないでもないが、あのような厳しさはここにはない。そもそも主人公のラールマンスには主体的な意思が欠如している。万事に受動的なのだ。そこがいい…のかも知れない。少なくてもペーソスは感じられるから。
2016/09/10
ケイ
主人公は全然同情すべき男じゃないんですよ。騙されてない?大丈夫?と思うけれど、自分もちゃっかりずるいことをしている。抜けてる分、家族や周りがサポートしてくれる。日本の小説でこのちゃっかりさは描かれないだろうなと思います。周りの人々の優しさは、きっとこの主人公は、愛すべき人なんでしょうねえ。私ならお見舞いにいかないけど(笑) お墓で出会ったおばあさんが気になります。お母さんなのか神なのか…。このシーンがあることで、全体の様子がすっかり変わります。厳かな、素敵なシーンです。
2015/12/01
まふ
ベルギーの作家によるユーモアとペーソスの物語。造船所のうだつの上がらない事務員の主人公が突然オランダチーズのベルギー・ルクセンブルク総代理店に任命されて「実」より「形」から準備に入り起業するが失敗する。だが、彼は破産するわけでもなく、生じた損失を弁済するだけで済み、また昔通りの生活にもどれてしまう。どうやら、ここがこの作品のミソのようであり、悲劇にならぬこの予想外の終わり方が「なあんだ」とか「えっ」などと読者に様々な感懐を生じさせるのではないかと思う。省略の効いた言葉がこの作者の魅力のようだ。G1000。
2023/06/01
扉のこちら側
2017年153冊め。【283/G1000】「まだ本気出してないだけ」というセリフが出てきそうな、虚栄心はあるけれどごくごく平凡な生活を送る事務員のおじさんがチーズの販売で一攫千金を狙う話。いや、正しく言うならばそのプロットは重要であり、また重要ではない。日常を脱しようとするけれど、脱却しきれずに、しかし幸せはまるで青い鳥のようにそばにあったという、これはそういう話。
2017/02/14
NAO
凡庸なのに、自信過剰で、楽観的。虚栄心から栄達を夢見るけれど、形にばかりにとらわれて、地道な努力はあまり得意ではない。そんな男ラールマンスの起業失敗物語。そもそも、起業を持ちかけた金持ちがあまりにも胡散臭い。騙されたことにはなっていないけれど、これって劇場型詐欺のやり口と同じではないだろうか。だから、ただ単純には笑えない。やっぱり、身近な人の冷静な判断が必要ってことですね。表紙とラストが、何とも意味深です。
2015/12/21
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