歳月なんてものは
歳月なんてものは / 感想・レビュー
kinkin
2006年に亡くなった久世光彦のエッセイ集。前半は仕事を通して関わった人たちとの交遊録。後半は映画、本や想い出話など滋味溢れるエッセイで校正されている。テレビというメディアの黄金期に活躍された著者、最近のテレビドラマを観たとしたら嘆くのではないかと感じた。
2014/07/04
nonpono
久世光彦の死後に出されたエッセイ。「鮮やかな人たち」と「本と少年幻想」の章で成り立つ一冊。見かけない版元だと思ったが、作家の辺見じゅんが作った幻戯書房なんですね。久しぶりに読んだ久世光彦の流れるような美しい文章。「もしその日、私が涙壺を持っていたなら、私の涙は映写機の青い光を受けてキラキラ輝いていただろう。それはたぶん、私の生涯でいちばんきれいな涙だったに違いない。」久世光彦から教わったもの、クリムトの絵、向田邦子、小林薫と田中裕子、昔の日本の歌。まだまだ読みたかった。そしてその文章に酔いたかったのだ。
2023/06/18
みつ@---暗転。
*** 前半部の「鮮やかな人たち」よりも、やはり後半部にあたる「本と少年幻想」に興味が向いた。前半部では文人としてよりも演出家としての久世氏が見られる。昭和を代表するような俳優について語られる度に、インターネットで画像検索をしている自分に少々失望した。時代格差を感じるのは、自分にも自身の時代がつくられたからか。後半部に収められた、媚薬たる花物語と幻想の中の少女たち、老少年ジャン・コクトーとの出逢い、戦争体験と感じた火の美しさ、映画への耽溺などは、特に興味深く読んだ。現実と幻想は、同じ土俵にあるのだろう。
2013/08/29
冬薔薇
昭和10年頃のまだ薄闇の残っていた穏やかな時代をいとおしむ。体が弱く本に埋もれていた少年時代、富山に疎開していたころの思い出。後に小説になる原石がいくつもあった。「鮮やかな人たち」は当時のテレビ場面が鮮やかに浮かび上がる。昭和という響きじたいが懐かしく切ない。
2016/07/19
そろ
本の厚さと値段の反比例に思わず涙ぐみます。久世さんの新刊が!と期待に胸を高ぶらせ本屋で対面した時の歓喜と諦念。すでに故人となった作家の新刊は落ち穂拾いのようだ、と思う。遺された言葉を、一言も漏らさないよう丹念に辿って行く。全ての作品を読破してしまうのが怖くて、古本屋を歩き回って購入した何冊かは今も大切に埃を被って部屋に積んである。 亡くなられてから出会ったせいかどの作品にもしんとした死の気配が漂っているように思えて、私はいつ死ぬのだろうか、と埒もない事を考えてしまう。
2011/12/09
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