国家をもたぬよう社会は努めてきた: クラストルは語る
国家をもたぬよう社会は努めてきた: クラストルは語る / 感想・レビュー
松本直哉
ノブレス・オブリージュという言葉の本当の意味は、首長が民に対して負債をもつということなのかもしれない。民が首長に負債を持ち貢納を納める国家において、支配と服従の関係が前提されるのとは反対に、国家を持たぬ社会では、民の代弁者でもある首長が、民に気前よく与え民を飢えさせないことが彼の義務で、その義務を果たさない首長は直ちに引きずりおろされる。そこで首長が命令せず、権力を持たないのは、それによって社会に分断を生じさせないためだった。アマゾンの部族のフィールドワークに基づく視点は革命的なまでに刺激に富む。
2021/12/12
msykst
めちゃくちゃ面白かった。「国家に抗する社会」というクラストルの発見は、社会契約にせよ、進化論的な文明史観にせよ、西洋が前提にしている国家発生のメカニズムを脱臼させるのであり、これがグレーバーを触発させたというのはよくわかる。酒井隆史の解題が文脈を詳細に補完してくれるのだけど、例えば西洋社会が国家を自明視してしまう根拠等々、とても勉強になる事が多かった。この時期のインタビュー読むたびに思うのだけど、聞き手の知的レベルと意気込みが半端なくてビビる。
2024/08/25
月をみるもの
なるほど「交換形式」を軸として社会のありかたを分析している柄谷行人の「世界史の構造」は、クラストルが元ネタだったのか。。企業というのは最初から商品(労働力)交換が前提の存在であるわけだが、それでもスタートアップの時は互酬が、そして大きくなるにつれて、略取・再分配の割合が増えていってるような気がする。長らく「世代をまたぐ純粋な贈与」の場として人類存続の基盤であった家庭は、これからどうなっていくのだろうか。。。
2022/04/08
roughfractus02
国家に従属する社会から見れば、国家に抗する社会は国家を欠如した未開社会に見える。が、著者は国家に抗する社会の調査を通じて、国家を当然とする社会の従属状況を読者自身の現実として指し示す。国家に抗する社会では戦争状態における戦士とそれ以外の状態の首長を見張る人々が重要な役割を果たす。人々の行為が、権力を求心化する可能性のある両者に遠心化、分散化する力として働くからだ。著者のインタビューを収めた本書は、主に首長に権力が集中しないような社会の努力が語られる。背景には、内なるファスジムに向かう現代社会の危機がある。
2024/02/10
かんがく
「未開社会」を一方的に理想化するのもよくないが、国家の無い状態の社会を考えることで現状の社会の在り方を相対化する試みは必要。首長が民に義務を与えるのでなく、首長のみが義務を負うという論が面白かった。
2024/05/15
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