親子の時間
親子の時間 / 感想・レビュー
buchipanda3
いつまでも親は親で子は子だと改めて思った。著者の「親子」を描いた作品選集。読む間、懐かしさと共にささやかな幸せが漂う空気の心地良さに身を任せていた。何でもない会話に親と子の積み重なった繋がりが見える。ここに描かれない息の合わないこともあったはず。でもそれも含めて無二の関係が自然な言葉を交わらせる。娘が引っ越す時に持っていく意外な物を前にした会話や風呂の火加減の声のみのやり取りのユーモラスさ。親子ゆえの共有のおかしみ。語り手が言う夢で見た父の背中の感触、それも幾度となく経た平凡な日常がもたらしたものと思う。
2024/09/09
pirokichi
ライター・書評家の岡崎武志さんが編んだ「親子に親子で読んでほしい」庄野潤三小説撰集。「山茶花」「もくもく毛虫」「組立式の柱時計」「「山の上に憩いあり」など全9篇。『夕べの雲』、『明夫と良二』『せきれい』など庄野さんの家族ものは、まるで自分もその家族の一員であるかのように思い入れがあり大好きなので、こんな素敵な函入りの和田誠さん装幀の本で、庄野家の5人家族に再会できてとてもうれしかった。岡崎さんのあとがきもとても良い。かけがえのない大切な親子の時間。読み終えてその珠玉の時間を函の中にそっとしまった。
2022/08/11
ユカ
なんてことない家族の会話が、なぜこれほど胸を打つのか。涙さえ出そう。つられて、自分の家族の楽しかったひとコマなんかを思い出して、ついに泣いてしまう自分。ちなみに家族はみんな生きてます。なぜ悲しい。違うか、幸せなのか。
2020/09/24
Inzaghico (Etsuko Oshita)
親子を描いた短編が収録されているが、これはすべて庄野一家のお話。内容も多少は潤色されているだろうが、おそらくはほぼこのままの会話、営みなのではないだろうか。 柿生の河上徹太郎家との交流を描いた「山の上に憩いあり」を読めたのも収穫だった。川上家に行って狩りをしたり、四阿で食事に与ったりしたかと思えば、生田で河上家を招いて毎年クリスマスパーティをしたり。クリスマスパーティは、庄野家総出の劇もある。そして心のこもったプレゼントを河上夫婦に贈呈するシーンは、何度読んでも目頭が熱くなる。
2020/05/07
ぱせり
当たり前の日常がけれど、当たり前じゃない。庄野潤三の私小説のなかの日常は。思い出すのは『マローンおばさん』(ファージョン)の「あんたの居場所はここにあるよ」。この本『親子の時間』のなかからもこの言葉が聞こえてくるような気がする。ささやかに見えて深くて広い、奇跡のような「当たり前」へ。「おはいり」と呼びかけている。
2022/03/07
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