いちべついらい 田村和子さんのこと
いちべついらい 田村和子さんのこと / 感想・レビュー
ネギっ子gen
【海軍ではね、集まりがあるとこう言う。一別以来。久しぶりっていう意味なのよ】詩人・田村隆一の4番目の妻、そして詩人・北村太郎と。父が彫刻家・高田博厚である田村和子と30年付き合い、稲村ケ崎の家で共に暮らした校正家が、可笑しくて痛切な日々を綴った書。写真は、武田花。「あとがき」で、<何かされたり言われたりして傷ついた人もいたかもしれないが、和子さんは根本的には気が弱いところが大いにあった。ひととはちょっと違う面で。その気の弱さを、和子さんはあっはっはあと笑うことでカバーしていたような気がしてならない>と。⇒
2023/12/18
ばう
★★★お昼ごはんの前にちょっと読もうかな?と思ったら一気に読んでしまいました。著者が詩人田村隆一の妻和子さんと過ごした日々を綴った回想録。夫とその友人北村太郎の間で揺れ動く和子さんの心はやがてバランスを崩していきます。和子さんはまるで嵐のような人。その為か、そんな彼女と親密に過ごした著者もやがて自身の心と身体の両方を病んでしまい、遂には和子さんと縁を切ろうと決心します。それでもこの本を書こうと思ったのは和子さんにはエキセントリックだけでは無い、人を惹きつける凄い魅力があったからなんでしょうね。
2015/10/06
kaoru
『荒地の恋』の登場人物、田村和子と稲村ケ崎で生活した橋口幸子さんの手記。小説と違い淡々とした語り口だがそれがリアリティを感じさせる。田村隆一や北村太郎との関係もさらりと書かれている。高田博厚の娘で家事にまめで料理上手だった和子さんが晩年には精神を病み、壊れていく様子は痛ましい。北村太郎の69歳での死の際、和子さんがかかってくる電話に嬉々として応じていたという描写もある。個性は強かったのに愛されることが多かったのは、やはりどこか魅力ある人だったからだろう。自らも鬱に悩まされつつ交遊を続けた橋口さんも偉い。
2019/04/04
ぱせり
著者と和子さんの間にあるバランスの微妙さにどきどき。お互いを頼り、お互いを少しずつ浸食してもいるのに、お互いの一番美しいところを大切に享受しあっているような、どこまでも身を削られても、それ以上の歓びを得られるような関係、だったのではないか。このタイトル、田村和子さん死去から二年を経て、著者から、亡き和子さんへの「いちべついらい」の挨拶だったかな。
2015/09/07
チェアー
田村隆一、田村和子さんの話。こんなに寂しいところからしか詩は生まれないのか。田村隆一は、周囲を楽しませていたのではなく、孤独を撒き散らしていた。人一倍感じやすい和子さんは、それを受け止めようとした。だが、時々受け止めきれなくなって、愛情を北村太郎さんに向けたりしたのかもしれない。最後は本人は満ち足りていたのだと思いたい。
2018/08/23
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