埴原一亟古本小説集
埴原一亟古本小説集 / 感想・レビュー
さらば火野正平・寺
また夏葉社の本を読んだ。新刊書店でも古書店でも扱われている不思議な出版社。この本は山本善行さんが夏葉社の人に推しまくって出たらしく、ホームページにも「傑作とは思いません」的な推薦文が付いていてかえって読みたくなった(笑)。この著者名は「はにはら・いちじょう」と読む。世の中の大半は知らないし、聞いたそばから忘れてしまいそうな名前である。「つげ義春にも似た読後感」とあったがまさしく。古本小説というより、生活や金の苦労の話ばかりで何だか汚い内容だなぁと思っていたが、気付くと夢中で一気読み。驚いた。一読の価値大。
2019/07/19
HANA
帯にある通り「忘れられた作家」の短編集。ただどの話も一読、忘れられないような印象を残す。古本小説集というより貧困小説集であり、古本自体が主題になった話よりそれを取り巻く人が中心。それが「せどり」だったり古本屋経営であったりするのだが、どれにも「貧」という一字がこびり付いているような話ばかりで、読んでてやるせなくなってくるなあ。白眉は「塵埃」と「翌檜」。どちらも社会の一断面を切り取った部分が心に残ると同時に、当時の風俗に思いを馳せる事しばし。藤澤清造もだけど、このテーマ読んでると心が寒々しくなってくるなあ。
2017/12/02
二戸・カルピンチョ
安価だけれど旨い酒を寝かしておいて、澱が出た頃に呑んだ、そんなような読後感だ。まず埴原一亟という作家を知ることができて嬉しい。本書は戦中戦後、廃品を回収するクズ屋やクズ屋に出入りする古本屋などを中心に描いた作品群である。特に崇高な思想があるわけでもなく、エキセントリックな展開もない。それでいて、味わい深く、向こうからこちらに染み込んでくるような文章だ。「かまきりの歌」では尾久という人物が「加藤秋夫の田園の詩は誰の作品だ」という科白があるのだが、これは誰が読んでも佐藤春夫の田園の憂鬱にしか思えない。
2023/11/14
kochi
古本屋の島は、かつて、大きなヤマを当てたことが忘れられず、掘り出し物を探してゴミ屋の建場を訪ねている。ある時、江戸時代のものと見られる貴重な冊子を見つけるが… (「翌檜」芥川賞候補作)あまり期待せずに読み始め、読了すれば処分かなぁと考えていると、作者の分身らしき島赤三の貧乏譚に、ハラハラ、ドキドキで、やはり芥川賞は侮り難し(候補だけど)。経歴を見ると樺太で戦後しばらく暮らし、ソ連の新聞社で仕事をしていて、帰国後は共産党入党とあるので、戦後の彼の状況はそう言うことも影響あるかもしれない。読んでよかった!
2021/05/16
chie
これは本当に明治生まれの人が書いたのと疑いたくなる様なわかりやすい文章、内容でした。7篇中3篇の主人公「島赤三」はおそらく同一人物ではなく、また「塵埃」での登場人物がこの3篇に絡んでいたりして、オムニバスになっているのも異色。解説によると、芥川賞候補作になった「店員」(本作には未収録)という作品を宇野浩二は、調子が低いと評したとのことですが、「塵埃」で描かれている、したたかな活気は、全篇に散りばめられている様に私には感じました。撰者も書いている様に、もっとたくさんの人に読んでもらいたいです。今だからこそ。
2019/02/10
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