観光客の哲学 増補版 ( )
観光客の哲学 増補版 ( ) / 感想・レビュー
ころこ
終盤の2章が追加されての増補だが、文字組が変わると印象が変わる。本書の醍醐味は、頭では分かっていても、読むという行為に際して体験的な驚きや発見があることだ。ひとつは文章の上手さ。パズルのように綿密に組み立てられた論理の精密さ。そして何よりも「観光客あるいは郵便的マルチチュードが、テロリストに共感を覚えつつもどうすればそこに転落しないですむのか」と、このテロとはトランプ現象のことを指している。しかし、我々はもうひとつのテロをこの間に経験している。増補された第9章に「触視的平面の時代においては、ひとは「にせも
2023/06/21
yutaro sata
ナショナリズムとグローバリズムの対極の二層が存在する世界において、観光客という偶然性を担う概念がその繋ぎ変えやノイズを起こす。偶然性にさらされ、その偶然性のなかから必然を作り出す、つまり世界を新生児のようなものと捉え接するという、家族の概念。統計が優位な時代において、私もあなたも置き換え可能なサンプルであるという確率的な不安を抱えること、それは実存の不安とはまた別のものなのだという。 『訂正可能性の哲学』へ続く。
2023/07/27
特盛
評価4/5。別の根拠地に居ながら無責任にふらっと遊びに来る観光客。根拠地を持たない旅人とは異なる。そこには偶然性による新しいネットワークの配線のかけ替えの可能性、また受け入れる側の変容がある。グローバル経済(帝国)と国民国家の併存する時代に、動物的なリバタリアニズムでもなく、国家(共同体の呪縛)でもない、新しい連帯の可能性を構想する。時事と理論と実存の交差点を実践するのは著者ならではのスタンスだ。理論は構築途上で、足掻き苦心するプロセスの自己開示は共感を持った。コロナ、ウクライナ後に書かれた続編も読みたい
2024/07/20
mikky
煩雑極まりない現代を既存の哲学を引用しながら整理し、分類し、わかりやすくときほぐしたあとで、なおかつ新しい思想の構造を描こうとするこの手腕。あまりにも鮮やかでした。後半にあるドストエフスキーの最後の主体についての論も読み応え抜群。『地下室の手記』から『悪霊』へと変遷を遂げてきた主体は恐らく『カラマーゾフの兄弟』の第二部においてドミートリー(地下室の主体と同種)、イワン(悪霊の主体と同種)に対するアリョーシャとして描かれるはずだったのではないかという考察は面白く、再度作品を読み返したくなりました。
2023/10/20
koke
他者とは内のものか外のものか確定できない観光客、新生児のような不気味なものである。しかし人間は同感能力と家族的類似によってそれと連帯できる。つまり誤配が起きる。観光客を大事にしろ・親として生きろ、というのがグローバル化と観光の時代の新しい格律となる。否定神学的な信仰に終わらないマルチチュードがそこから生まれる、のかは本書だけではよくわからない。
2023/11/12
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