世界のすべての朝は (伽鹿舎QUINOAZ)
世界のすべての朝は (伽鹿舎QUINOAZ) / 感想・レビュー
ケイ
死んだ妻を愛して手放せない男のツケは、娘がはらう。妹より姉の方がこういうことの犠牲になりやすいのかもしれない。呪いがかかる。才能があるために尊ばれる男の傲慢さの罪からの罰を、知らずと課せられるマドレーヌ。妹は姉が手にしようとするものを何でも欲しがる。それも、父親が与えた閉鎖性のためかもしれない。自分のしていることの残酷さを意識すらしていない若い男。女の魅力はかすれていっても、音楽の魅惑は色褪せることは無い。醜さをみせない音楽と、作り出す人間の醜さ。解説はどれも考えすぎてやたらと長く、美しさがなかった。
2018/07/01
nobi
17世紀のヴィオル奏者で作曲家サント・コロンブという名を初めて知った。同時代のL.&F.クープランの華やかで透明感のある曲とは対照的、仄暗い礼拝堂に佇んでひたすら過去へと向かうかのような曲を残している。殆ど明らかになっていないその奏者の生涯をキニャールが物語化。亡き妻と二人の娘、弟子マラン・マレの絡む映像的な物語は、ヴィオルのように柔らかい言葉の響きの中に追憶と激情と非情とを込める。宮廷に背を向け本来の音楽に向き合う姿。「世界のすべての朝は」という明るく見えるタイトルは、喪失感と結びつく主語としてあった。
2020/03/01
紫羊
美しくて悲しい物語だった。読みながら、映画「レッドバイオリン」や「バベットの晩餐会」のいくつかの場面を思い出した。いつかまた再読したい。
2018/06/04
zirou1984
キニャールの書物には常に芳醇な孤独が満ちている。それは沈黙から溢れ出る雄弁な嘆息、静寂から漏れ出る優雅な音楽。17世紀に生きた決して有名とは言えない音楽家、しかし著者はだからこそ想像力を広げ、ひとつの人生を物語として形作る。それは繊細でありながら官能的でもあり、芸術に対する門番であるかのように思想が研ぎ澄まされている。何より、言葉を用いることの優雅さがこの上なく刻まれている。訳者含む3名による解説も素晴らしく、文庫サイズの復刊ということで何よりも手元に置いておくべき作品と言いたくなる良さがあった。
2018/05/08
KI
言葉は語りかける相手がいて、初めて意味を持つのだろう。
2018/10/07
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