くらしのアナキズム
くらしのアナキズム / 感想・レビュー
trazom
「国って何のためにあるのか?」で本書は始まる。文化人類学者である著者は、人類学の視点からアナキズムを考察するが、その殆どは「民主主義と国家は不可能な結合」「民主主義の根幹は同意。多数決とは相容れない」などのデヴィッド・グレーバーの主張に拠っている。現代社会において、くらしのアナキズムを実現する手段を著者はどう考えているのだろう。「ルールを変えるには、既存のルールを破らないといけない」として行動しても、一方で、歴史は「成功した革命は、すべて、打倒した国家よりも強権的な国家を創出して終わる」と教えている。
2022/06/26
けんとまん1007
アナキズムという言葉を、どう解釈するのかで、随分と受け折り方が違う。読みながら、そうそうと思う部分も多く、楽しみながら読んだ。いわゆる農村部に暮らし、古くからの慣習や町内の方との関係性の中にいる一方で、少しずつ、その形態も変わってきていることを実感している。残したいおt思うことや、やっぱり、いいよなあ~と思うことがたくさんある。それは、今のこの国のありようとは、違う要素も多い。寄りあい・・という言葉がでてくるが、まさにそう。多数決の前に、合意を図る方向に向かうということは、残したいと思うことの一つ。
2021/10/26
肉尊
アナキズムが目指す原初状態は、人類にとっての初期設定(デフォルト)である。著者は熊本地震の被災体験から、非常時に国家は機能しなくなることを目の当たりにした。現場では一人一人が考えて行動し、共助の精神が発揮される。人類学からのアプローチは、国家とは異なるロジックの「もののやり方」を見せつけてくれるし、国家の存在意義だけでなく、我々が、如何に見かけ倒しで陳腐な民主主義に安穏としているかがよく分かる。民主主義は道半ばなのだ。直接的方法論としての低理論から公共を造り直す試みの手がかりとなる一冊。
2023/01/26
harass
震災やコロナ、人類学者の著者のエチオピア滞在などから、アナキズムを考察する。なによりも思考することの大切さの姿勢にいろいろ唸ってしまう。当たり前のように思っている国家への疑問、少数派であること、日々の暮らしと身近な人たちとの付き合いから、思想を巡らせていくこと。文化人類学や歴史学の名著の話があり、読んでいたはずだが、国家成立以前の世界をアナキズムにつなげていくのは予想していなかった。ただ読むだけではいけないと痛感。漠然としているアナキズムのための遠回りな本。おすすめ。
2022/01/15
ta_chanko
『反穀物の人類史』にもあるように、「国家」は暴力や文字を用いて強制労働と徴税を強いる機関。辺境地域には未開な人々が取り残されたのではなく、自らの意志で国家の支配から逃れた山岳民や遊動民が今も存在する。国家が機能しなくても、災害時のように人々が助け合うことで秩序ある社会を築くことができる。国家においては選挙で物事が決められ、少数意見が封殺されるが、伝統的な村落や部族社会では人々が納得するまで話し合いや雑談が続けられる。政治リーダーには権威も権力もない。くらしのアナキズムは、より良い社会を築くためのヒント。
2022/03/26
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