小さき者たちの
小さき者たちの / 感想・レビュー
アキ
小さき者たちの歴史は、先人の記録が教えてくれた。人類学者としてエチオピアの村の生活をフィールドワークしてきたが、生まれ育った熊本・水俣の歴史にこそわが国のリアリティーがあった。石牟礼道子、緒方正人、水俣民衆史、原田正純、土本典昭、川本輝夫、天草のからゆきさん、須恵村の女たち。それらの著作の引用で、たった百年程前の日本には今とは全く違う世界が当たり前のようにあったことを知る。「現代は間接的な情報があふれている。他者への共感はイメージの中に留まっている限り、他者への憎悪と同じ地平に立っている」重い言葉である。
2023/02/22
けんとまん1007
小さき者とは何だろう。そこに暮らし、生きている一人の人としての存在。得てして、眼が届くことは無いに等しい存在なのかもしれない。眼が向くときは、大きな人的被害を受けた存在としてかもしれない。しかし、そこに生きていることは、間違えようのない事実。それと対峙する存在は、自分事としては決して考えない。考えないというよりも、見ようともしない。それを見たから・・・という人たちの存在・在り様がこころの奥底に響く。自分は、どこに眼を向け、どれだけ抗えるだろうか。
2023/04/08
Nobuko Hashimoto
水俣、天草、須恵村という、著者が生まれ育った九州・熊本の「小さき者たち」(普通の人びと)の生き方や言葉を慈しむように拾いあげたような本。水俣という土地の変遷、水俣病の苦しみ、企業や人の冷淡さや勝手さ、静かに、あるいは激しく事実に向き合う人たちを、先行研究や作品から掬い上げる。テーマやトピックは興味深いが、えらくちょっとずつな文章だなあ思ったら、ミシマ社のweb雑誌の連載をまとめたものだった。納得。
2023/11/09
ryohjin
文化人類学者の著書が、名もなき「小さき者」の暮らしを、故郷である水俣を書いたテキストからたどります。石牟礼道子氏の著作に神々や聖霊、そして異界の者たちを畏れ祈るかつての人たちを見いだし、緒方正人氏の著作からは、命が命とつながって生きていると感じられる世界が壊された中で、水俣の漁民や被害者の闘いは、尊い命のつらなる世界に一緒に生きていこうという呼びかけであったことを読み取ります。著者が書かれているとおり「水俣」は普遍的な問題であり、様々な立場の人々の記録から、その問題を知り考える出発点となる本だと思います。
2023/02/06
タナカとダイアローグ
日本の、半世紀前くらいでしかないのに、今からは考えられない生活がある。いかに近代でガラリと変わり、高速でアップデートされてきたかがわかる。松村さんいわく、史料をあたっているなかで想起したのはエチオピアの経験だったそう。水俣を見てしまったから、責任を背負ったという小さきものたち。望んで英雄になろうとしたのでなく、見てしまったから、うごくこと。歴史は多数者ではなく少数者がうごかす。自分がルーツに目を瞑っているとしたら、北朝鮮拉致だったり新潟水俣病だったり。近代の要請により、国家と国家間と人間が翻弄させられた。
2023/08/04
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