竹本健治・選 変格ミステリ傑作選【戦前篇】 (行舟文庫 た 1-1)
竹本健治・選 変格ミステリ傑作選【戦前篇】 (行舟文庫 た 1-1) / 感想・レビュー
アキ
1841年E.A.ポー「モルグ街の殺人」から始まるdetective storyが、日本で流行した1890(明治20)年代探偵小説と呼ばれた。その内謎解きやトリック重視のものを本格と呼び、異常心理を重視したものを不健全派と命名した。後に不健全派を変格と呼ぶ。竹本健治の選ぶ戦前傑作の16篇のトップは、夏目漱石「趣味の遺伝」でした。谷崎、芥川、川端、乱歩、正史と、何れも人そのもののおぞましさと犯罪に手を染める心理を描く物語。個人的な好みでは、谷崎潤一郎「白昼鬼語」が一番良かった。海野十三「俘囚」もいい。
2022/02/05
Sam
「変格探偵小説」の誕生からその変遷を解説した序文を読み、「変格」の何たるかが分かった気になる。曰く「変格」とは「本格」の単なる対概念に留まらず「ミステリ・ジャンルの間口を拡げ、表現者たちの実験的精神を刺激し、涵養する、肥沃な土壌を提供した」。そして本編最初の作品は「陽気のせいで神も気違いになる」という、いかにも「変格」を予感させる一文から始まる漱石「趣味の遺伝」。夢野久作や小栗虫太郎といった変格の代表作家たちに加えて谷崎潤一郎や芥川龍之介、川端康成の作品も紹介されている。なかなか面白いアンソロジーだった。
2022/06/08
geshi
『白昼鬼語』戦前ミステリの型をしっかりふまえた妖しい雰囲気は流石谷崎というべき筆運び。『魔』噂によって肥大するパニックを丁寧に描いていて時代や状況を越えた普遍性がある。『殺された天一坊』知られた大岡裁きを題材に真実のありさまを考えさせる苦味。『目羅博士の不思議な犯罪』日常のすぐ隣に開く異界への扉を書かせたら乱歩の右に出る者はいない。『俘囚』SFとミステリをごっちゃにしたらバラミスが出来上がりました。『蔵の中』終盤の無限回牢に迷い込むような感覚は横溝作品として異質で忘れ難い。
2022/06/21
カーゾン
M:幾つか既読の小説もあり(例:白昼鬼語・侏儒)そこは割愛するも読破するまで相当時間がかかった。特に川端の「散りぬるを」を理解するのに然り、夏目の「趣味の遺伝」の発想と豊富な語彙を自分の頭で整理するのに然り、である。他の作品で面白かったのは久生十蘭の「海豹島」と小栗虫太郎の「失楽園~」でした。ところで、今回採られた中国人作家、孫了紅の作品は”変格”に位置づけされるのかなぁ。個人的には”本格”に近い気がするけど? さて、いつか「戦後編」も読まねば。
2024/02/22
不見木 叫
竹本健治による変格ミステリアンソロジー(戦前編)。確かに「本格」とは異なる読み味を感じる。浜尾四郎「殺された天一坊」、江戸川乱歩「目羅博士の不思議な犯罪」、木々高太郎「網膜脈視症」が特に好きな話です。
2021/11/16
感想・レビューをもっと見る