海図と航海日誌 (SWITCH BOOKS)
海図と航海日誌 (SWITCH BOOKS) / 感想・レビュー
踊る猫
改めて読み返すと実に骨太な哲学的思索に満ちた本だと唸る。しかもそれを(イヤな言い方をするが)「口当たりよく」現しているのだからこちらも「知的なエンターテイメント」を楽しむことができる。日本という国を時に逸脱しつつ著者が読み解いた膨大な本(文字通り「万巻」ではないか)の中からさまざまなトピックに応じて本を選び、それについて平たく語る。これはもうDJの手付きと言っても過言ではない。私は当時の池澤夏樹とほぼ同い年になったわけだが、ここまで語れるわけがないので彼の「読書癖」に脱帽するしかない(「私は私」なのだが)
2023/03/23
踊る猫
まだ存命中の作家のキャリアをこのように整理するのは合理的でもないし失礼でもあるだろう。だが、この本は壮年期に差し掛かり円熟を迎えた書き手だからこそ書けた仕事ではないかと思った。これからもますます作品世界をその脂の乗った筆で描いていく勢いがあり、かつ若い頃に修行しただけの蓄積もたっぷりある作家だから書けたのではないかと。どのチャプターも読み応えがあるが、池澤夏樹のベースにあるのは実にある意味子どもっぽい(と書けばまた失礼だろうか?)問いなのだなと思った。なぜ読むか、いかに読むか。だがこの問いは侮れない問いだ
2023/04/10
踊る猫
池澤夏樹に憧れていた時期がある。村上春樹に対する憧れと似ていたのかもしれない。中途半端/生半可な読者だったが故にドメスティックな文学圏の呪縛の中に居た自分にとって、そうした呪縛を軽々と乗り越える池澤の姿は眩しかった。今回読み返してみて、彼もまたそうした呪縛を意識しつつ自分なりの読み方を探る人であったという当たり前の事実に思い至る(つまり、海外の作家ばかり読むことに池澤なりになんらかの葛藤があったわけだ……当然だけど)。本書を池澤が書いたのが40代の終わり。しかし、彼のエバーグリーンさはなおも色褪せていない
2021/10/24
kochi
もともと「自分自身について語ることを」好まないという、作家池澤夏樹による、自らの読書遍歴を記した「航海日誌」であり、おのずと、彼の半生や人とのつながりが明らかにされる。父・福永武彦との関係や丸谷才一との出会いなどがなかなか興味深いし、海外文学の本などはほとんど読んだことがないので、その部分は「ふんふん」とうなずきながら、頭の中のリストに加えるしかできない。うまく説明できないが、波長が合うというか、「こんな文章が書けたらいいな」という個人的目標を上げるなら本書もその一つになるに違いない。
2019/06/05
田舎暮らしの渡り鳥
村上春樹も性格が伝染するけれど、池澤夏樹の動物的な分析も、なんだか自我に残るなあ。
2019/12/29
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