寂しい国の殺人
寂しい国の殺人 / 感想・レビュー
いろは
殺伐として、冷たさが匂う。短い文章とCG写真の作品。現代の闇から沸き出る「寂しさ」を暴き出している。印象的だったのは、「十四歳の少年」とする「酒鬼薔薇聖斗」のことを、『人間が壊れ始めている』と表現したこと。他の作品では、「魔物」とか「別の世界の人間」と表現されていて、強い反発を感じたからだ。『人間が壊れ始めている』という表現からは、どこか他人事とは思わずに、『壊れ始めている』という表現が、現代社会をなぞっていて、惹かれる文章だった。私は前から村上龍を薦められていて、痛いけど、他の作品も読んでみたいと思う。
2017/11/13
itica
この本は14歳の少年による神戸連続児童殺傷事件の翌年に出されたエッセイ。あの頃から子供たちの何かがおかしいと言われてきた。事件から13年経った今はどうだろう。夢もなく、かと言って絶望している訳でもなく、これと言ってほしいものも、やりたいこともない、と言う子が多い気がする。村上氏の言うように日本は近代化の終焉を迎え、国民が一丸となって一つの目標に向かう時代が終わったせいで、人々は個人的に価値観と目標を見い出せない寂しさに囚われているのだろうか。正直良く分からないが、漠然とした不安は常にある。
2010/12/03
ロマンチッカーnao
短いエッセイ集。でも、その短い文章の中に危機感が満載。しかも、なるほどと思える内容ばかり。15年前の本だけは、今読んでも新しい。日本が目指した近代化。それはすでに成し遂げた。しかし、その先の目指すものがない。だから、個人で目標を決めつつ生きなければこの世は寂寞としすぎて、寂しすぎる。そんな寂しい個人。社会。心・・何もかも・・しかし、その対処がなんらない。それはこの本が書かれてから今も・・変わらないという深い恐怖を感じました。
2015/07/29
寅ちゃん
再読。インザミソスープを執筆していた頃のカット集。シャープな言葉と大胆なグラフィックアートが掲載され、この国の病理を浮き彫りにしていく。オウムや神戸の事件など、ショッキングな時代に出版されている。貧しさからくる悲しさから、個人の寂しさへと変容したのは人間的な進歩である、ということは印象的。また「小説家は現実をなぞるのではない、想像力を駆使して現実に立ち向かうのだ」という言葉はなんとかっこいいんだ。この人はどこまでも甘えや馴れ合い、共同体や世間を嫌い、本当に独立した視線を持つ稀有な人だと思う。 」」
2021/11/28
mlunaria
これが真実を書くという小説家の立ち振る舞いだ、と思った。冷たくもなく、かといってテキトーなことばで擁護したりでもない。以下心に留めた文。「もう国家的な目標はない、だから個人としての目標を設定しないといけない、その目標というのは君の将来を支える仕事のことだ。子どもは親のことを見ている。生き方を見ているのだ。生きていく姿勢、日常的に示す価値観をじっと眺めている。 」
2012/04/27
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