いい子のあくび (集英社文芸単行本)
「いい子のあくび (集英社文芸単行本)」のおすすめレビュー
ながらスマホの自転車にわざとぶつかってみた…「いい子」は割に合わないことを物語る『いい子のあくび』
『いい子のあくび』(高瀬隼子/集英社) 雨の日に、傘を真横にして歩いている人を見ると、ときどき「刺さりにいってやろうか」と思うことがある。「痛い!」と腹を抱えてうずくまれば、それがどんなに危険であるか思い知るんじゃないか、と。もちろん、リスクが激しすぎるので実行したことはないが、歩きスマホ・自転車のよそ見運転に対して、それを実践してしまうのが高瀬隼子さんの小説『いい子のあくび』(集英社)の主人公・直子である。 誰にでも愛想がよくて、気配りがきいて、その人が欲しいであろう言葉をさりげなく提供できる直子は、「いい子」で「いい人」である。けれど根っからの善意で行動しているわけではなく、すべてが作為である自覚があるから、それに気づかず無邪気に自分を愛し結婚したがる恋人の大地のことは、見る目のない馬鹿な男だと思っている。そんな彼女の、負の感情を発露させる先が、「避けてもらって当然」と思っている道端の人たちだ。 直子は、スマホをしながら自転車を漕いでいる中学生に、体当たりをしにいくわけじゃない。ただ、避けなかった。結果、ぶつかって、彼も転んだ。それだけ。その場…
2023/7/15
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