――相棒となる柏木についてもお聞かせください。

狛犬：バディものの定石に則って、相方となる斑鳩とは対称的な人物にしました。女性であること、感情豊かでよく喋ってくれる人であること。ちょっと変わった主人公と、それをうまいこと制御してくれる相棒ですね。これもまた原型イメージは『ガリレオ』（註5）なんです（笑）。斑鳩ほどではないけれど柏木もちゃんと優秀な警官なので、そこをしっかり出すように気をつけています。

――柏木は斑鳩を若干冷めた目で見ながら根底には尊敬がありますね。でもそれを態度にはださない。程よい距離感覚が絶妙です。

狛犬：あからさまな尊敬が入ると、対等なバディではなく上下関係になってしまうから。あくまでも柏木と斑鳩は対等。そこも大事にしています。

――勝丸円覚さんにはどんなことを中心に取材されましたか？

狛犬：メインで訊いたのは役職です。このキャラクターは◯◯歳の設定なのですが、この年齢でこの役職は不自然ですか？ という具合に。年齢と役職問題って分かる人が読んだら一発で不自然かどうか分かりますよね。それこそ警察官の方とか。

――公安の読者もいるかもしれませんしね。

狛犬：そういう部分を疎かにすると、そこからリアリティが剥げ落ちてしまう気がして。あと、元公安の勝丸さんだからこそお尋ねできたのは、公安を辞めたことでどんな危険な目に遭ってきたか、です。作中でふれているように、公安を辞めて民間人になってから「お礼参り」をされることは実際にあるらしく。そのあたりもたくさん訊いています。

――『ベアフェイス』を読んだ勝丸さんの反応はいかがでしたか。

狛犬：「自分自身が斑鳩化されているみたいだ」という感想をいただいたのが、すごく嬉しかった。実は僕自身も取材をしながら、公安という大きな組織を離れて自分の力で生きていくことを選んだ勝丸さんは斑鳩に似ていると感じていたんです。

――現実の人物とフィクションの人物が似通ってくる……面白いシンクロですね。作画についても質問させてください。アクションシーンを描くうえで大事にしている点は？

狛犬：画面の見やすさです。何が起こっているのか（読む人が）ちゃんと理解できるようなカメラアングルや（人物の）動き方になるように。できるだけ現実寄りに。あり得ない超人的なアクションは描かないようにしています。自分は格闘技の経験がないので、それだけにしっかり調べて描くようにしています。

――取材などはされていますか？

狛犬：格闘技をしている知り合いに、実際に技をかけてもらっています。例えば1巻の第5話で斑鳩が襲撃者に十字固めをかける場面がありますが、僕も寝技の十字固めをかけてもらったんです。確かにこれは動けんわー、と実感しました。

――殴る蹴るの派手めな画よりも、技をかけたり、押さえ込んで動きを封じたりするアクションが多い印象があります。

狛犬：斑鳩と柏木は元警察官なので、彼らのアクションは逮捕術がベースなんです。殴るよりも相手の動きを止める方が大切。だからアクション的には派手になりにくいのかも。

――そのぶんリアリティがあります。編集が巧みな映画を見ているような感じがします。

狛犬：実のところ描いていて楽しいのはアクション以外のシーンなんです。会話や、人物同士のやりとりで公安の雰囲気を出せているかなという部分がいちばん楽しい。和泉と斑鳩の対話など、公安っぽい視点をどんどん入れていって、この作品でしか出せない雰囲気を醸しだしていきたいですね。

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（註1）……
2010年放送のTVドラマ。IQ201の変人刑事・当麻と、叩き上げの武闘派刑事・瀬文が、特殊能力（SPEC）を持つ犯罪者たちと対峙するミステリー＆SF＆警察ドラマ。正式名称は「SPEC～警視庁公安部公安第五課　未詳事件特別対策係事件簿～」。

（註2）……
1997年放送のTVドラマ。脱サラ刑事の青島を主人公に、現場の刑事とそれを指揮するキャリア官僚の衝突や、縦社会である警察組織の実情などを描いて幅広い人気を集めた。シリーズ化に加え映画化も。

（註3）……
1990年代半ばに警視庁に入庁し、2000年代はじめから公安・外事分野で経験を積む。現在は公安を離れ、セキュリティコンサルタントとして国内外で活躍。執筆活動やTVドラマの監修も行い、TBSドラマ『ヴィヴァン（VIVANT）』（2023年放送）の公安監修を務める。

（註4）……
2010年放送のTVドラマ。人のいい心療内科医・田口と変人官僚・白鳥のコンビが、医療現場を舞台に様々な難事件を解決する医療ミステリー。西島秀俊が演じたのは「ジェネラル・ルージュ（血まみれ将軍）」の異名を持つ救命救急医。

（註5）……
2007年放送のTVドラマ。天才にして変人の物理学教授・湯川学と、直情型の新人刑事・内海が超常現象絡みの難事件に挑む男女バディのミステリードラマ。