誰かのぬくもりとともに思い出す。小さな積み重ねの記憶で生きていく『おかえり、めだか荘』北原里英インタビュー
※本記事は、雑誌『ダ・ヴィンチ』2023年9月号からの転載になります。 タイトルに「おかえり」とつけたのは、北原さんがかつてルームメイトからもらって救われた言葉だから。 取材・文=立花もも写真=山口宏之 「『テラスハウス』に出演したとき、見ず知らずの人たちと生活をともにするなかで何気なく言われた『おかえり』という言葉に、なぜだか心を打たれたんですよね。上京したてのころはAKB48の地方出身者たちと1カ月半、そのうちの一人だった大家志津香ちゃんと1年半ルームシェアしていたのですが、その後の一人暮らしで失っていた、誰かと暮らすあたたかさを取り戻せたような気がして、今でも折に触れて思い出す、忘れられない瞬間だったんです。もちろんすべてのルームシェアが美しく成立するわけじゃないだろうし、他人と暮らすのは気苦労も多い。だけど、家族でも恋人でもない、友達と言うのともまた違う血の繋がらない他人が、ふと与えてくれる優しさに救われることもあるのだということを、小説を通じて描いてみたいと思いました」 舞台となるめだか荘に暮らすのは、大家の娘である柚子と、柚子のバイト先の常連客だった…