歴代最強の元公安警察官を描いて「発売即重版」! 話題のクライム・アクションマンガ『ベアフェイス』はどうやって生まれたか?《インタビュー》
公開日:2024/11/11
公安――それは選ばれし警察官のみで構成された警察組織。エリート中のエリートたちが集結する公安内で「歴代最強」「怪物」と呼ばれた男、斑鳩(いかるが)は突如として退職し、第二の人生を歩みだす。それは探偵業だった……。『ヤングキング』で大好評連載中のクライム・アクション『ベアフェイス ~公安を去った男~』(少年画報社)。コミックス第1巻は発売即重版となり、待望の第2巻が発売されたばかりの著者・狛犬はやとさんにインタビューをしました。
(取材・文=皆川ちか)
――――もともとマンガ家志望だったわけではなく、絵を描くのがお好きだったとのことですが。
狛犬はやとさん(以下、狛犬):はい。高校卒業後にイラストやアニメ、マンガについて学べる専門学校へ入り、次第にマンガを描くのが面白くなっていったんです。卒業後の数年間はバイトしながらマンガを描く生活を送っていました。ある日、専門学校時代の先生から『ザ・ファブル』の南勝久先生がアシスタントを探しているんだけど、やってみない? と紹介されて、南先生のもとで働くことになったんです。そこでいろいろ吸収して、プロデビューしようという思いでしたね。
――その思いを実現し、本作でデビューされました。
狛犬:最初は少年誌を目指していたんです。だけどなかなか成果が出ず、自分としても描きたいものは少年マンガではなく青年マンガなんじゃないかと気づいていって。それでアシスタントの卒業期が迫ってきた頃あたりから、持ち込み先を青年誌に変えました。『ベアフェイス』の原型は当時から温めていて、少年誌では感触がよくなかったのですが運よく『ヤングキング』では気に入ってもらえました。
――どんなマンガを描きたいと思っていましたか?
狛犬:僕は警察もののドラマや映画が好きなのですが、中学時代に「SPEC」(註1)にどハマりしたのが大きかったと思います。ちょうど最終回の放送日が修学旅行と重なってしまい、録画はしておいたんですが、旅行しながら「旅行してる場合じゃねえよっ」てじれじれしていたほど……。それくらい「SPEC」には何かを植えつけられました。一方で「踊る大捜査線」シリーズ(註2)もよく観てました。
――『ベアフェイス』も警察ものの変形といえますね。ただし、警察は警察でも公安警察です。
狛犬:警察を描いた作品はたくさんありますが、その多くは捜査一課や所轄の警察署が舞台です。今からそこへ参戦するのも新鮮味がないし、警察ものが氾濫しているだけに間違った描写をするのを避けたい気持ちもありました。その点、公安を描いた作品は多くないうえ、表に出ない組織なので読む側にしてもあまりイメージがわかないだろうと考えました。だからある程度自由に描ける。加えて主人公を現職の公安警察官ではなく元公安にすることで、さらに自由度を上げよう、と。
――斑鳩の性格はどのようにして決めていきましたか。
狛犬:まずはエリートであること。だけどあまりにも完璧すぎると面白くないし、読者の方も共感してくれないと思うので、強さに差し支えないぐらいの弱点というか、警察官としてふさわしくない点を入れ込みました。「お前それでも警察官かっ!」とツッコまれるような。
――それが人から感謝されたいという、ちょっと変わった癖(へき)ですね。斑鳩は「ありがとう」の言葉が欲しくて、しばしば相手がちょっと引くくらい感謝を強要してきます。
狛犬:警官から「助けてあげたんだから、ありがとうは?」なんて言われたら嫌ですよね(笑)。他にも「金に汚い」設定も考えたのですが、それだと警察官である必然性がなくなってしまう。医師とか弁護士でもいいじゃないか、と。警察官であるからこその警察官らしからぬ点として、これを思いつきました。斑鳩というキャラクターはここが軸になっています。
――黙っていたら、そこそこカッコいいだけに残念です。
狛犬:取材に協力してくださった勝丸円覚さん(註3)によると、公安警察官は外見的に特徴のない人の方がいいそうです。長身だったりイケメンだったりすると人の目に留まりやすいので、かえってよくないと。だから斑鳩のカッコよすぎない、いい感じに普通な見た目がうまいことハマってくれた気がします。ちなみにモデルは『チーム・バチスタ2 ジェネラル・ルージュの凱旋』(註4)の時の西島秀俊さん。僕は人物を描くときに実際の俳優さんをイメージして描くことが多いんです。見た目そのものというよりも、あの作品でのあの雰囲気、あの演技、というふうに。でも最近は意識しないで描くようになっているので、それだけ斑鳩が自分のなかに定着してきたのかも。